壽蔵の中にあるもう一つの蔵。純米大吟醸専用の「光蔵」という存在。 | こめから.jp | お米のチカラで豊かに、上質に。

酒蔵だより

SAKAGURA

2020.2.12.

壽蔵の中にあるもう一つの蔵。純米大吟醸専用の「光蔵」という存在。

醸造蔵である壽蔵は今、令和元年度の酒造りの最盛期です。壽蔵の周辺一帯には、蒸し米の湯気が濛々と立ち上がり、完熟した醪の芳香が漂います。9月から始まった福光屋の今期の酒造りは、年を越した1月中旬からピークを迎えます。蔵人たちは気迫に満ち、蔵一帯は厳粛な雰囲気に包まれます。この壽蔵の中に、寒の時期に開かれる特別な仕込み蔵「光蔵」があります。純米大吟醸の中でも最上級の銘柄である「瑞秀」、「初心」のみを造る、いわば福光屋の聖域ともいえる空間です。
「光蔵」の扁額と杉玉(酒林)が掲げられた扉の向こうには、壽蔵の通常の球形タンクの1/5サイズの小さなタンクと、醪を自然の圧で搾るための伝統的な槽(ふね)が据えられ、凛とした冷気に満たされています。ここで行われる純米大吟醸の仕込み時期は、壽蔵の通常の仕込みを一時休止し、蔵人15人全員で仕事に当たります。杜氏や頭、酛屋、代司の三役、若手の蔵人が一丸となって麹や蒸米を麻布で担いで運び入れ、そこからのひと月半は、繊細な酒質に寄り添った細やかな手入れを絶え間なく行う極限の日々。これらの酒造りを率いる杜氏の板谷和彦は、光蔵の存在を「福光屋のハンドメイドの象徴」であるといいます。
寒の水で手洗いしたお米を蒸し上げ、純米大吟醸専用の在来室で100kgの蒸米にわずか0.1gほどの種麹の胞子を均一にふって、深夜、早朝分かたず作業を繰り返して完成する特別な麹、福光屋独自の吟醸酵母を大切に育てる極めて緻密な酛づくり。これらの慎重な手仕事の一つひとつが最後に集結する場所、それが光蔵です。
「小規模の完全なハンドメイドは、酒造りの究極の理想を追求できます。毎年、“これ以上高める方法はないか?”という精一杯の気持ちで知恵を絞り出し、新しい発見と結果を得ています。光蔵で体得した新しい技は、規模を広げて壽蔵の仕込みに応用させますから、光蔵の純米大吟醸の質が上がれば上がるほど、定番酒のレベルも引き上げられるのです」。
福光屋の酒造りは、伝統の技の中から新しい技を見出し、日々進化をさせながら395年間続いています。福光屋の手仕事を先導する光蔵では今、仕込まれた純米大吟醸の醪が完熟醗酵の頂点を迎えようとしています。