酒づくりの言葉・酒蔵ごよみ――「甑立て」 | こめから.jp | お米のチカラで豊かに、上質に。

酒蔵だより

SAKAGURA

2018.10.2.

酒づくりの言葉・酒蔵ごよみ――「甑立て」

甑(こしき)とは、酒米を蒸すための大型蒸籠のことで「甑立て」とは、その蒸籠を起こして蒸米づくりをはじめること。つまり、酒の仕込みを始めることを意味する醸造専門用語で、晩春の蒸米づくりの終了を表す「甑倒し」と対になる言葉でもあります。7月1日から新たな酒造年度が始まり、今期の仕込み計画や原料米の調達などが整った9月吉日、福光屋でも今酒造年度の甑立てを迎えました。

「酒造りを、その要の順に“一麹、二酛、三造り”と呼ぶことがあります。ところが、その麹をつくるにしても、酛を仕込むにしても、当然お酒の仕上がりも一番はじめの蒸米の良し悪しがすべてを大きく左右しますから、“一にも二にも蒸米である”という気持ちで取り組んでいます」と、板谷和彦杜氏。多岐にわたる杜氏の仕事の中でも最重要とする工程で、すべての蒸米の仕上がりに立ち会ってその出来を見届けます。まずは蒸米から立ち上がる湯気の香り、蒸米の透明感、さばけがよいか、色味はどうか、酒米の品種や精米歩合の違いごとに瞬時に見極めます。と、同時にひと掴み手にとって粘りや質感を掌や指先で確かめながらひねり餅をつくります。出来上がったひねり餅を光に透かし、味見するまでの一分間の一連の流れの中、五感をフルに使って蒸米の出来を慎重に的確に判断し、ときにその後の工程計画の変更を決断する材料とします。「酒造りは麹や酵母などの微生物が主役、我々蔵人はあくまで脇役である――という福光屋の信条において、精米から洗米、浸漬、蒸米づくりだけは人間が先導的に関わることができる唯一の部分。だからこそ、あらゆる狙いや理想を貪欲に追求します。蒸米づくりは、酒造りの最初の頂だと考えています」。平成30酒造年度の甑立てを迎え、酒蔵の周辺には秋風にのって蒸米のよい香りが漂っています。いよいよ平成最後の酒造りが本格的に始動しました。