壽蔵の酒造三昧――酒蔵の名も無き仕事1【拭き上げ】 | こめから.jp | お米のチカラで豊かに、上質に。

酒蔵だより

SAKAGURA

2021.1.13.

壽蔵の酒造三昧――酒蔵の名も無き仕事1【拭き上げ】

多くの職人仕事がそうであるように、酒造りの日々も地道な名も無き仕事の積み重ねで成り立っています。「拭き上げ」もその一つです。酒母タンク、醪タンクで作業をする度に、タンクの口を清潔な分厚い綿布で拭き上げる作業。櫂棒を入れて酒母や醪を撹拌する度、成分検査のために少量を柄杓で掬い出す度に、蔵人は熱湯に近い湯を通した布で丹念に拭き上げます。一つのタンクで、これらの一連の作業を1日に4〜5回。ともすると、櫂入れ作業にかける以上に、拭き上げに時間を費やしています。

新人蔵人は、先輩にこの拭き上げを酒造りの基本的な仕事として教わります。自分の仕事に手を抜かない、清潔に保つという姿勢を身につける必要があることはもちろん、タンクの口に酛(酒母)や醪を付着させたままにすると、お酒にとって好ましくない匂いの元になったり、純粋な醗酵には不要な雑菌の温床に変化する可能性があるからです。麹や酵母といった微生物が酒造りの主役だと考える福光屋は、こういった作業の一つひとつが微生物を健全に、愛着をもって育てるプロセスだと考えています。

拭き上げには、もう一つ大切な役割りがあります。四つん這いの姿勢になって、最も間近でタンク内を観察できる時間になることです。よく見て、よく聞き、よく嗅ぐ。微生物の働きを身体全体で「感じる」という、純米蔵の最も大切な仕事が、このルーティンワークの中にあるのです。蔵人たちの小さな、ささやかな仕事の積み重ねの上に、お酒の美味しさが成り立っていると考えています。

Tags