酒炭酸のある風景

佐藤健寿と酒炭酸

様々な国を旅してきて、よく人に聞かれるのは「一番良かった国は?」という質問。いつも答えに困るのだが、ひとつ言えるのは、どんなに貧しい国であれ、どんなつまらなかった国であれ「食が豊かな国」というのは、絶対にバカには出来ないということ。逆にどんなに発達した国であれ、どんな美しい国であれ、夕食時、ファーストフード・ショップに行列が出来るような国には、僕はなんだかがっかりしてしまう。食は人間の最も根源的な欲求である以上、その国の食の在り方は、結局、その国の在り方そのものだと思うからだ。だからその点で言えば、僕は日本こそ、やっぱり世界で一番いい国なんじゃないか、と旅から帰るたびに思ってしまう。

そんな日本の中で、最高の食文化をもつ金沢。その老舗の福光屋さんが生み出した「酒炭酸」は、全く新しいのに、とてもシンプルだという、優れたものだけがもつ条件を、当たり前に備えている。その名の通り、日本酒を炭酸で「割る」だけ。言葉にすれば簡単なこの工程に、福光屋さんのマイスターがどれほどの熱意と創意を注ぎ込んだかは、一口飲めば、すぐにわかる。さっぱりしているのに、あっさりしすぎない。上品だけど、カジュアル。こんな繊細な”作品”、やっぱり日本の職人以外に作れないんじゃないか。

海外の取材で疲れた夜、こんなお酒が気軽にレストランで飲めれば、どんなにいいかと思う。また一つ、日本に早く帰りたくなる理由ができてしまった。

佐藤 健寿 

フォトグラファー

武蔵野美術大学卒。自然と珍奇といった博物学的視点、タブーと奇習といった美学的視点をテーマに世界中の奇妙なものを撮影している。写真集『奇界遺産 THE WONDERLAND'S HERITAGE』(エクスナレッジ)、ほか著書に『X51.ORG THE ODYSSEY』(講談社)。2012年にはeatKANAZAWAにゲストとして出演。近日中に世界70カ国以上を旅して撮影した写真集「奇界遺産II」の刊行を予定している。