ホーム > 福光屋 酒造り用語集

福光屋の「職人魂の酒造り」は、造りのさまざまな工程で独自のこだわりと工夫を積み重ねてきた結果、 生まれたものです。基本は「自然の恵みをいかに上手に最大限に引き出すか」ということ。 自然とうまく折り合うことが最大の秘訣であると考える福光屋の酒造りの個性と特徴を紹介します。
福光屋の蔵
福光屋の蔵 寛永二年(1625年)創業の福光屋は加賀百万石の華麗な文化と豊かな風土に育まれ、酒を醸して380有余年。金沢で最も長い歴史を誇る酒蔵です。福光屋には壽蔵(ことぶきぐら)、光蔵(ひかりぐら)、禄蔵(みどりぐら)、福蔵(ふくぐら)という4つの酒蔵があります。壽蔵は純米造りの骨格を受け持つ完熟醗酵蔵であり、純米蔵・福光屋の基盤、光蔵は精密な大吟醸造りの真髄を追求し、技術の粋を集めた純米大吟醸専門の醗酵蔵、禄蔵は追求する熟成の形によって緻密に温度設定された主たる熟成蔵、福蔵は最高級品質の原酒を低温熟成させている福光屋に現存する最古の土蔵造りの熟成蔵です。
百年水
百年水(ひゃくねんすい) 福光屋の仕込み水は生まれたて百歳。酒造りに最適の水質を備えています。金沢大学理学部の調査によると、一世紀前に降った雨が地中深く浸み込み、幾重にも重なった貝殻層をくぐり抜け、カルシウムやマグネシウムなど酒造りには欠かせない成分をゆっくり溶け込ませて、蔵に辿り着いているということです。酒蔵にとって水は命。創業以来、福光屋が石引の地に蔵を置くのは、百年の歳月を旅したこの恵みの水があるからなのです。
契約栽培
契約栽培(けいやくさいばい) 福光屋では生産農家と契約栽培することによって、高品質の酒造好適米を安定確保しています。これは昭和35年に兵庫県中町と「山田錦」の契約栽培を結んだのが最初で、現在では長野県木島平と「金紋錦」、兵庫県出石と「フクノハナ」、富山県福光町と「五百万石」をそれぞれ契約栽培しています。酒造好適米は栽培地が限られ、育成が難しいだけでなく、収穫量も少ないのが現状です。契約栽培の利点は、安定供給のみならず、農家と土づくりから共に研究して、より品質のいい酒米を収穫できることにあります。また、毎年の気候状況によって変化する米の性質も事前に予測、把握できたり、酒米の個性を見極めることによって、独自の酒造好適米ともいえるような特性改善も可能です。そして何よりもつくり手の顔が見えるということが、お互いの励みとなり意欲となり、最も大きな利点であるといえます。
粒選り
粒撰り(つぶより) 収穫された山田錦の中から、特に粒の大きいものを撰りすぐり、極上の原料米としています。主に穂の先から摘み穫られるため「穂先米」とも呼んでいます。これは生産農家の方々にとっては大変手間のかかる作業なのですが、より良質の原料米を追求した結果、生まれたものです。約50年にわたる契約栽培の絆から生まれたともいえます。大粒最良の山田錦は極限の精米にも耐え、艶やかな舌ざわりをもつ究極の大吟醸造りを実現させました。
 
調質
調質(ちょうしつ) 酒米は精米されるときにその摩擦によってカラカラに乾燥します。乾燥しきった米はその後、洗米・浸漬の過程で過剰に水分を吸収してしまいます。水を吸い過ぎた米はベタついた蒸米になり、結果、よい麹が得られません。そこで、福光屋では精米した米に二昼夜にわたって、細かい霧を降りかけ、米本来の自然な水分を取り戻すための工程を行っています。「調質」というこの工程は現在、福光屋だけが取り入れているものです。それによって造りの工程が1つ増えることになるのですが、米の性質にあわせて蒸米の吸水率を調整することもでき、常にパリッとした最適の蒸米ができます。「外硬内軟」といい、米のひと粒ひと粒が、外側はパリッとしていて、内側がやわらかいという蒸し加減が理想とされています。まずいい蒸米であることは酒造りの原点ともいえます。そのためにも調質は欠かせない工程です。
在来室
在来室(ざいらいむろ) 福光屋には製麹のための室が2つあります。その1つ、在来室では昔ながらの「蓋麹法」、「箱麹法」で麹を育てています。麹には蒸米のデンプンをブドウ糖に分解する糖化酵素をはじめとする各種酵素をつくり出すことと、酵母の栄養源を供給する役割があります。麹の出来の良し悪しは酒のコクに大きく影響します。在来室では麹づくりを担当する代司が、麹の微妙な変化を香り、味、手ざわりから感じとり、成長にあわせた的確な手入れと微妙な温度管理を行います。麹のひと粒ひと粒が均一にムラなく育つようまる2日間、昼夜を分かたず作業は続けられます。十分な手間をかけてふっくらとした力強い麹を育てるのです。福光屋ではすべての吟醸麹ともと麹をこの在来室で伝統の手法によってつくります。
間欠通風室
間欠通風室(かんけつつうふうむろ) 在来法の床麹法を応用し、より効率的な手法で製麹を行っているのが間欠通風室です。ここでは量が多くなる掛麹をつくっています。引き込み床と棚が分かれた構造になっており、現在いろいろな製麹法に用いられる除湿回路を初めて設けた方法です。棚に相当する部屋を4つの床に分け、それぞれ別の品温を通風させることによってコントロールしています。それによって層の上下ムラがなく、ハゼ込みの良い麹が得られます。この間欠通風室の構造は自然の原理に則り、福光屋が独自で考案したものです。在来室で勘と経験が判断する麹の変化を、ここでは優れたセンサーが感知します。
球形タンク
仕込みは蒸米と水、麹と酵母がはじめてひとつになる工程です。福光屋が仕込みに使用しているタンクの底は球形です。自然の対流を応用するための形なのです。これによって糖化と醗酵のバランスが理想的に保たれます。糖化は麹が蒸米をブドウ糖に変えるプロセス。醗酵は、酵母がそのブドウ糖からアルコールをつくり出すプロセスです。球形タンクの中でこの糖化と醗酵が同時に進行するので、そのバランスは重要です。さらに仕込み単位は最大でも3トンで、それ以上大容量の仕込みはしません。できるだけタンクの中のバランスをよくするためです。醪は約20日間、適温に保たれながら醗酵を続けます。福光屋では仕込みタンクの1本ごとに、醗酵の進度にあわせて品温制御ができる設備を整えています。デリケートなセンサーと適度な大きさの球形タンクが自然の力を最大限に引き出す秘訣なのです。
酵母バンク
酵母にはよい香りを生む酵母、旨味を増す酵母、酸を多く生む酵母などそれぞれに個性があります。福光屋では約300株もの清酒酵母を性質が変わらないよう、マイナス85℃の酵母バンクに保存しています。その中から造りに合わせて酵母を選び出します。酒の味や香りの特徴を生かすために、酵母の性質を見分け、使い分けることが重要です。酵母は長年蔵に棲み着いている家つき酵母と呼ばれるものから、バイオを駆使して新たに開発したものまでさまざまです。現在、吟醸酒のほとんどは福光屋独自で開発した酵母を使用しています。さらに理想的な酵母を求めて、日夜ミクロの研究を続けています。
センサー制御
酒造りを機械化し、これまで人間の感覚で判断していたことをコンピューターが代替しているという蔵が増えました。福光屋では自然と機械と人間が明確に役割分担されています。最も優先しているのは自然の恵みです。機械と人間は自然を最大限に生かすためのサポート役をします。酵母や麹が気持ちよく活動しているかどうかを、表情を見る、香りを嗅ぐ、味をみる、感触をみる、音を聴くなどして確かめます。その時、人間の予測や判断がより的確にできるよう増幅してくれるのが、さまざまなセンサーです。麹の温度変化、醪の醗酵状況などを、それぞれに適したセンサーで制御しています。なかには独自で開発したものもあります。センサーはすべてがプログラム化されているコンピュータとは違い、あくまでも最終的な判断を人間の感覚で行うための精密機器なのです。
微生物主義
人間の都合で酒造りをしない、というのが福光屋の考えです。言ってみれば「微生物主義」。酒蔵の設備、例えば麹室やもと場、醗酵室の構造、取り入れている機械の設計、造りの工程、それら全てが微生物優先になっています。そして蔵人も微生物優先に動きます。だから、造りの期間中(10月~4月)は正月でも休日でも仕込みを休みません。人間の都合で醗酵日数を調整したり、搾りの日程を決めたりすることはしません。作業時間は微生物に合わせて決まります。酒蔵は明け方早くから動きはじめ、麹を手入れする真夜中の作業が今も続いています。過酷な労働条件と捉えられるかもしれませんが、蔵人は乳飲み子育てる母親のような役割なのです。職人気質で、蔵人は動きます。
適期上槽
適期上槽(てっきじょうそう) 醗酵が進むにつれて、醪の表情や香りは刻々と変化します。醪の「ツラ」ははじめ軽い泡(水泡)、次いで岩のように盛りあがり(岩泡)、さらにきめ細かく濃厚に全体を覆うようになります(本泡)。やがてタンクからあふれそうになり(高泡)、数日後、次第に引いて(引き泡)落ち着くと大きな玉のような泡(玉泡)が浮かんできます。玉泡が消えてしばらくすると、醗酵完了です。同じように、醪の香りも変化します。酵母が活発に活動し、炭酸ガスを発生させ始めると、ツンと鼻をつく香り(ツン香)、醗酵が進むに連れて、果実のような香り、やがて醗酵が完了するころには独特の芳香が漂います。杜氏は、このような「ツラと香り」で、酒の出来具合を判断するのです。醪は生きていますので、搾りが1日ずれただけでも酒の味はちがったものになってしまいます。搾りのタイミングを見極めることは酒の味を決めること。当たり前のことのようですが、ほとんどの酒蔵では、醗酵日数が固定されていますので、予定日がくれば自動的に酒は搾られます。福光屋ではタンクごとに酒が最もおいしくなったことを杜氏の勘とデータ分析の両面から判断し、適期上槽をおこなっています。2倍の上槽能力を備えることによってそれを可能にしています。
貯蔵
球形タンク(きゅうけいたんく) 酒は貯蔵することによって味わい、香りともさらに成長します。福光屋では搾りあがった新酒をそれぞれの酒質に適した温度で貯蔵します。酒の設計にあわせて、短いもので6ヶ月、長いものは何年、何十年と貯蔵します。貯蔵している原酒はその成長を、定期的にチェックし(→呑み切り)、初めに意図したように熟成が進んでいるかを確かめます。この時の判断で、その後の貯蔵条件を決めていくのですが、温度帯と期間が酒の成長を方向づける重要なファクターとなります。造りの違いや原料米の違いによって異なる貯蔵条件に対応するために、福光屋では7段階の温度帯の貯蔵庫を備えています。
中汲み囲い
酒の搾りは「荒走り」「中汲み」「責め」の3段階で区別されます。搾りはじめ、最初にほとばしるのが「荒走り」(「新走り」とも書く)。やや濁りがあり、清冽で荒々しい味わいの部分です。中心のなめらかで、もっとも舌ざわりのいい旨味のある部分を「中汲み」といいます。そして終盤、圧力をかけて搾りきることを「責め」といいます。同じ醪でも搾りの段階ごとで味わいの個性は異なります。「中汲み囲い」とは文字通り、中汲みだけを一定期間囲う(貯蔵する)ことをいいます。福光屋が主に大吟醸などで行っている手法です。
呑み切り
貯蔵してある酒が健全に熟成しているかどうかを調べることを「呑み切り」といいます。貯蔵タンク一つひとつの呑み口から少量の酒をとりだして行うことからこのようにいわれています。ほとんどの酒蔵では国税局の鑑定官立ち合いのもとで行うのが、長く続いているしきたりで、以前はこの機に火落ちしていないかを調べたり、酒造技術の指導などを受けていたようです。福光屋では毎年梅雨に入る頃に「初呑み切り」があり、秋までに数回行います。杜氏にとっては丹精込めて醸した酒たちがしっかり成長しているかどうかが確認される緊張の行事のようです。呑み切りでは一般の利き酒とは違い、主に目と鼻だけをつかって評価していきます。官能機能を集中させることによって、熟成の状態、原料米の成果、酵母の働きなどについて極めて繊細で微妙なデータを得ることができるのです。これらのデータから得る指針は貴重で、呑み切りは次の酒造りの方針を決定するためにも大切な行事のひとつです。
受賞歴
国税庁醸造試験所主催の全国新酒鑑評会は毎年4月から5月に開催されます。明治44年以来、さまざまな個性をもつ日本酒の品質向上を目的として開催されていました。蔵元は、その酒造年度(前年7月から翌年6月)に醸した新酒を出品し、地方での予選を通過したものが全国への権利を手にします。味わい、香り、艶などが総合的に評価され、特に優秀と認められたものだけに金賞が贈られることになっています。鑑評会に対する意識は年々高まってきています。福光屋の出品歴は戦前に遡りますが、一時中断していた時期もあり、近年では十数年にわたっての金賞受賞を果たしています。
現在、全国の酒蔵でもっとも深刻なのが、蔵人後継者の問題です。従来、季節労働として農業や漁業を営んでいる人が冬の閑期に酒造りに携わるというのが、酒造業界の仕組みとなっていました。現在では酒造りを機械化し、四季醸造を行っている蔵もすくなくはありません。そのような蔵では蔵人は必要がなく、杜氏さえも不在となりかねません。福光屋ではあくまでも、人の手を生かした酒造りにこだわっていきたいと考えているため、後継者の問題は重要です。そのため、1980年代から、社員蔵人制度を導入しています。つまり、社内で蔵人を育成しているのです。ベテランの蔵人から伝統の技と経験による勘を直接、伝授してもらい、五感で酒造りを継承していきます。データ化できるものはデータ化し、勘の裏づけをとっていくこともしています。現在、社員蔵人は15名。酒造りの職人を育てること、これが福光屋の蔵人育成法なのです。